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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)1303号 判決 1964年1月16日

上告人 堀内千代次

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人山田友記、同佐藤均の上告理由第一点について。

執行吏木付四郎に所論のような故意または過失は認められないとした原判示は、挙示の証拠に照らし是認できる。(なお、債権者訴外竹智三郎および債務者同甲斐寛志間の金銭消費貸借契約公正証書の作成日付、これに対する執行文付与の日付および右公正証書に基づく強制執行委任の日付が所論のとおりであつたとしても、この一事をもつて直ちに右委任を受けた執行吏において右訴外人らが被上告人所有の本件伐倒木を取得しようと作為していたことを認識し得たはずであり、右執行吏に故意があつたとはいい難い。また、原審の確定したところによれば、執行吏木付四郎が本件伐倒木につき熊本地方裁判所仮処分係書記官から仮処分になつているかもしれない旨聞かされていたことは所論のとおりであるが、右執行吏は差押物件たる本件伐倒木が仮処分執行の対象であるとは思わなかつたけれども、多少の疑念を抱き、債務者甲斐の所有物件として競売するのに若干躊躇したが、債権者竹智が競売を迫り債務者甲斐も自己の所有であると主張したので、念のため競売現場において、「差押物件が仮処分の対象となつている疑がなくもないが、債権者、債務者がそうでないと言い、債権者が競売を迫るので、競売する。万一、後日仮処分物件であつても、本職は競買人に対し責任を負わない」旨を表明したところ、他の競買希望者は全部手を引き、竹智がこれを競落した、そこで右執行吏は競売調書に右表明したと同趣旨の文言を記載して右調書謄本を竹智に交付したというのである。右のような事実関係の下においては、右執行吏の競売実施について過失があるということはできないとした原審の判断は、正当である。)

所論は、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定を非難し、または原審の認定しない事実を主張して、原判決を非難するに帰し、採るを得ない。

同第二点について。

原判決は、本件伐倒木に対する執行吏木付四郎の競売実施、競売調書作成および競買人に対する競売調書謄本の交付の職務を行なうについて、同執行吏になんら違法はなかつたと判示しているのであり、すなわち上告人の本件伐倒木買受により蒙つた損害は、同執行吏の職務を行なうについて加えたものではないことを説示するものであることが明らかであるから、所論判断遺脱の違法はなく、所論は採るを得ない。

同第三点について。

執行吏木付四郎の競売実施により競落された本件伐倒木を上告人がさらに競落人から買受けたことによつて損害を蒙つたとしても、右執行吏の競売実施についてなんら違法の存在が認められない以上、被上告人において国家賠償法による責任を負うべき筋合のものではなく、これと同趣旨の原判示は正当であり、所論は採るを得ない。

同第四点について。

執達吏規則一〇条に照らし、執行吏木付四郎の所論行為に違法性はないとした原判決の判断は正当と認められる。それ故、原判決には所論の違法はなく、所論は採るを得ない。

同第五点について。

原審の判示するところによれば、本件強制競売の実施について執行吏木付四郎に故意過失もしくは職務上の違法行為があつたものとは認められないというのであるから、右職務行為と上告人における損害の発生との間に相当因果関係があるか否かは論ずる余地はなく、所論は、原判決の傍論的記載部分を非難するに帰し、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江俊郎、下飯坂潤夫、斎藤朔郎、長部謹吾)

上告代理人 山田友記、同佐藤均の上告理由

第一点原審は「執行吏木付四郎が伐倒木が国の所有であり、竹智等が共謀して強制競売の形式によりその所有権を竹智に取得させんと意図していたことを知つていたという証拠は何等存しないし、且つこのような事情を知り得べかりし状態にあつたことを認めるに足る確証がない」と判示しているけれども、

(一) この競売事件は世の中にありふれた競売ではない、ここに当時の実情を叙述しておく、熊本地方裁判所執行吏が仮処分執行している申請人沢田安吉が国に対する熊本地裁昭和三二年九月一七日付の昭和三二年(ヨ)第一三七号仮処分決定の執行と、熊地裁人吉支部執行吏が仮処分執行している申請人国が沢田安吉に対する熊地裁昭和三二年一〇月二十一日付の昭和三十二年(ヨ)第一六七号仮処分決定の執行が係争物を一にしてなされていた、その道の人に話題となつていた、その場所は昔平家の落人等の生存してきたという五家荘に続く一角で面積は八十六町四反余歩とも百町歩とも記載してある一千メートル二千メートル歩く距離は問題にならない広漠な地域でそこは熊本営林局が四十数年来育成した檜の造林地帯であつたのに、突如として某弁護士が一部に自己の土地があるものとした紛争詐欺事件と発展し、当時裁判所内には勿論のこと是非について世評にのぼつていた事件で暫くして天下公知の事実となり、曩に最高裁判所は上告棄却有罪判決言渡され特に裁判長より異例な意見が述べられたと報道機関は報じた事件に関連する民事の紛争事件であり、この地方では証明を要せぬ顕著な事実と謂える。

(二) 本件は当時者間に争がない国の所有である伐倒木に対する競売事件が基礎をなすのであるからその競売が無効であるかどうかにかかつているか、凡そ国の執行機関たる執行吏がその委任を受けるやその基本たる債務名義の成否を確認せねばならない、木付執行吏は債権者竹智三郎、債務者甲斐寛志間の強制執行委任受けたので債務名義である金銭消費貸借契約公正証書を検討してその公正証書が昭和三十二年十月七日作成されその執行文が十月十五日付与されたこと、十月二十五日執行委任となつたことを確認した筈である、そめやり方が他の状態と変つていたこと、つまり作為による執行であることを認識した筈である(甲第五号証記録135丁以下参照)

次にその謄本を送達すべき場所は宮崎県西臼杵郡なる債務者の住所であるべきに熊本市内淵上旅館内で送達してくかと云われて、二十六日九時十七分旅館で債務者に送達している記録92丁表3行木付証人調書参照、そのときどうしてこんな場所で送達きせたかに疑問の認織あるのが社会の通念でもあるのみならず送達受けた債務者甲斐は債権者の代理人と執行吏と同乗してハイヤーで二時間位行き降りて更に一時間位歩いて現場に案内されたその車中、道中の話は想像の推定はつくであろう、途中で国が仮処分した公示札を現認して通り可成り離れた現場で示された檜伐倒木を差押え調書を作成している記録92丁裏一行以下そして国有造林地帯山また山の続きで、国有林を盗伐倒した木であることは何人でも見て判然区別できる実況にあること甲第七号証の仮処分執行調書と公示札とで何人も国有林の伐倒木仮処分で執行中のものであることを認識できねばならない情況にあつた、また同執行吏は伐倒木差押えについて債務者は非常に協力的であつたと証言している記録93丁表8行以下更に差押物件につき競売実施した十一月二日の前日熊本地裁受付又吉書記官に尋ねたところ、本件伐倒木は仮処分になつておるかも知れんと云うのを聞いている、記録94丁表5行以下、次に奇怪なのは競売調書に自己弁明の条項を附していることである、すなわち競売調書二葉に、

熊本地方裁判所昭和三十二年(ヨ)第一六七号申請人国被申請人沢田安吉に対する仮処分がなされおるも、その仮処分地域外であることを債権者及び債務者は言明し競売せられんことを迫りたるを以て競売するものであるが万一本件物件が仮処分地域内にあることが後日判明しても本職は競買人に対して損害賠償等の責任は全然負わないこと」と記載した心理と意思。

右冒頭に寂述した情勢のもとに勃発した競売事件であるから前に示摘した事実を綜合して執行吏の具体的な基準が認定さるべき筈である。

すなわち執行吏の一般的基準となる故意と過失との限界は極めて明瞭に判定されるものと確信する。

(イ) 債務名義たる公正証書の作成日、執行文附与の日時、執行委任の日時の点

(ロ) 謄本送達した場所の点。

(ハ) 二個の仮処分決定の執行がなされていることを既に世評で知り公示札を現地で見て確認している点。

(ニ) 債務者が債権者代理人執行吏が自動車に同乗案内して差押せしめた点、そして差押につき非常に協力的であつたと記憶する程の協力であつた点。

(ホ) 現場は四十数年来国が造林した地帯での伐倒木であつた点。

(ヘ) 書記官から「仮処分になつておるかも知れん」と聞いている点。

(三) そこで原審はこれらの証拠によつて債権者と債務者と相互談合して国有林を盗伐倒した物件を、しかも仮処分決定の執行受けて執行吏の占有となつているのを競売にかけている怪しい不正な執行委任であることを執行吏は認識していながら故意または過失により競売実施しているものと公平、適切な認定をなすべかりしところ原審は故意過失の確証がないとてこの有力な証拠を無視している。

更に競売実施にあたつて調書二葉に記載している。

「後日損害賠償の責任を負わない」との点について区々の解釈もあろうが他の証拠と照らしこれを正確適切に解すれば債権者が競売を迫るからと理由をかかげ余儀なく競売するとみせしめ後日自分が責任を追及されても回避できるよう巧にあらかじめわざと(故意に)逃げをはつて記載したものであると認定すべきに原審はこれを文字通りに誤つて事実に反する認定をなしている。

これを要するに原審は社会正義の基盤に則り事実認定の資料につき誤なき判断をなすべきにかかわらず審理不尽採証の法則を無視して事実の認定を誤り上告人等の請求を排斥している違法な判決と信ずる。

第二点上告人等は国有物件を競売実施したのは不法無効である。本件損害を受けたのは執行吏が強制執行してならない伐倒木に対し競売を実施し競売調書を作成し、その謄本を競買人に交付した職務を行うについて生じた損害であると主張している事実に対し原審は判断していない原判決は判断遺脱している時由不備の違法な判決であるから破棄さるべきである。

第三点原審は上告人等が蒙むつた損害は甲斐寛志と竹智三郎の共同不法行為に因り生じたものであつてこれを木付執行吏の職務行為が協同又は競合しこれにより生じたものであるとなす道理はないと判示しているが、凡そ競売物件が真正化しているのは執行委任に始り競売調書作成で終る債権者の委任で債務者所有の物件につき権力者執行吏が適切な競売を実施したに因るからである、竹智と甲斐とが通謀しても執行吏が競売実施しなかつたら上告人等は買わない損害なかつたのである、競売調書作成された事実により上告人等は損害を生じたもので、原審は道理の法則基準を無視した違法の判決と思う。

第四点原審は「執行吏は常に必ずしも競売物件が債務者の所有に属することにつき万全の確信がなければこれを競売に付することはできないというような職務規律があるわけでなく」と判示して執行吏の行為に違法性がないとしているが、本件競売のように怪しい、疑わしい、そして不正な競売、不当な要求に迫られて拒否の権限も行使せず盲従したか、認容して競売したかにかかつている本件ではあるが、職務規律は執行吏規則第十条、第十二条、並に、執行吏執行等手続規則第四条に照らして国家機関たる本来の任務により瞭として規律は存するものであるから原審の認定は違法な判決である。

第五点上告人等は本件の損害は執行吏が国の所有物を競売実施して競売調書を作成し謄本を交付したから競売調書を見て間違いないと確信したので買受けたので相当因果関係があると主張しているのに対し原審は、また木付執行吏の前叙執行行為と右甲斐、竹智の共同不法行為乃至控訴人等の損害との間に相当因果関係の認められないことはいうまでもないと判示しているがこの判示では理由とならない、結局原審判決は理由を附せず且つ理由に齟齬ある違法の判決である

以上

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